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BRCA1、BRCA2遺伝子:がんリスクと遺伝子検査/NCIファクトシート

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―キーポイント―

女性が乳がんまたは卵巣がん、あるいはその両方を発症するリスクはBRCA1、BRCA2という遺伝子に変異がある場合大幅に高くなります。男性でもこれらの遺伝子変異を有する場合には乳がんのリスクが高まり、男女問わず、その他のがんを発症するリスクも高まると考えられています。

BRCA1とBRCA2のどちらかに変異がある可能性を示すがんを発症した家族歴がある人は、遺伝子検査でBRCA1とBRCA2の変異の有無を調べることができます。
BRCA1やBRCA2に変異が見つかった場合には、がんを発症するリスクを下げるためいくつかの選択肢があります。

BRCA1/2とは何ですか?

BRCA1/2とはがん抑制遺伝子です。この遺伝子が産生するタンパク質には傷ついたDNAを修復する働きがあり、細胞の遺伝物質の安定性を確保する役割を持っています。これらの遺伝子のどちらかに変異や組み替えが生じると、このタンパク質が作られなかったり正常な機能が失われたりして、DNA損傷が適切に修復されないことがあります。そうなると、細胞はさらなる遺伝子変異を起こしやすくなり、その結果としてがんを引き起こす可能性があるのです。

BRCA1/2における特定の遺伝子変異は女性の乳がんと卵巣がんのリスクを高め、さらにその他のタイプのがんのリスク増加とも関連しています。また、BRCA1/2変異は遺伝性乳がんのおよそ20~25%(1)、乳がん全体のおよそ5~10%(2)、さらに、卵巣がん全体のおよそ15%(3)に認められています。BRCA1/2変異との関連がある乳がんおよび卵巣がんは、非遺伝性のがんと比べて若い年代で発症する傾向にあります。

BRCA1/2変異は両親のどちらかから受け継ぐことが考えられます。いずれかの遺伝子に変異のある親から生まれた子供には、50%の確率(2回に1回の確率)でその変異を受け継ぐ可能性があります。BRCA1/2遺伝子に変異がある場合、もう一方の遺伝子が正常であっても、変異の影響を受けます。

BRCA1/2遺伝子に変異があると乳がんと卵巣がんのリスクはどのぐらい増すのですか?

遺伝的にBRCA1/2変異のある女性では、乳がんや卵巣がん、あるいはその両方を一生のうちに発症するリスクは大幅に高くなります。

乳がん:全女性のおよそ12%が一生のうちに乳がんを発症します(4)。一方、最近の推計では、遺伝的にBRCA1の変異を有する女性の55~65%、BRCA2ではおよそ45%が70歳までに乳がんを発症すると考えられています(5、6)。

卵巣がん:全女性のおよそ1.3%が一生のうちに卵巣がんを発症します(4)最新の推計では、BRCA1変異を有する女性の39%、BRCA2では11~17%が70歳までに卵巣がんを発症すると考えられています(5、6)。

この生涯リスク推計値は、新たな情報が明らかになるたびに、変更されています。研究が進めば、数値はさらに変わる可能性もあることを認識しておくことが大切です。BRCA1/2変異を有する女性とそうではない女性のがんのリスクを直接比較した長期的な集団研究はこれまでにありません。

また、女性一人一人がもつ特性により、リスクは平均よりも高くなったり低くなったりすることがあると知っておくことも重要です。この特性には、乳がん、卵巣がん、またはその他のがんを発症した家族歴、特定の遺伝子変異に加え、妊娠歴などのリスク因子があります。しかし現時点では、最新のデータによれば、これらの因子はいずれもBRCA1やBRCA2の変異ほど強い影響を及ぼすとは考えられていません。

BRCA1/2変異と他のがんとの関連はあるのですか?

BRCA1/2変異を有すると、乳がんと卵巣がんのほかにも、いくつかのがんのリスクが高まります。女性では、BRCA1変異があると、卵管がんと腹膜がんのリスクが増す可能性があります(7、8)。男性では、BRCA1変異があると乳がんリスクが増加します。BRCA1より程度は小さいですが、BRCA2変異でも乳がんのリスクは高まります(9)。また男性では、BRCA1/2変異を持つと、前立腺がんのリスクが増大します(10)。BRCA1/2変異を有する男女では膵臓がんのリスクが高くなる可能性があります(11)。BRCA2変異(FANCD1としても知られる)は、両方の親から受け継いだ場合、小児の固形がんや急性骨髄性白血病の発症に関連するファンコニー貧血の一種(FA-D1)を引き起こす原因となる可能性があります(12、13)。同様に、BRCA1変異(FANCSとしても知られる)は、両方の親から受け継いだ場合、別のファンコニー貧血を引き起こす可能性があります(14)。

BRCA1/2変異は特定の人種や民族に多く発生するのですか?

はい。その一例として、米国ではアシュケナージユダヤ人のBRCA1/2変異率が、他の民族と比べて高率です。このほかにも世界では、ノルウェー人、オランダ人、アイスランド人などが特定のBRCA1/2変異を高い割合で有しています。

さらに、米国ではアフリカ系、ヒスパニック系、アジア系、非ヒスパニック系白人など個々の人種や民族によって、特定のBRCA1/2変異を有する割合はさまざまであることが、限られたデータにより示されています(15,16)。

BRCA1/2変異を検知するための遺伝子検査は受けられますか?

はい。受けられる検査にはいくつかの種類があり、家族の誰かが遺伝子変異を持っているとわかっている場合などには、特定の遺伝子変異を見つける検査や、1対両方の遺伝子で考えられる変異すべてを調べる検査などがあります。変異を調べるには、DNAを血液や唾液から採取する必要があります。サンプルは分析のため検査機関へ送られ、検査結果がわかるまで通常1カ月ほどかかります。

BRCA1/2変異を調べる遺伝子検査を受けるのはどのような人ですか?

BRCA1/2変異を持つ人は、全体的に見ても比較的まれであるため、がんではない人を対象に検査を行うのは、本人または家族に BRCA1/2変異の存在が疑われる場合に限るというのが専門家の間でほぼ一致した見解です。

2013年12月、米国予防医学専門委員会は、乳がん、卵巣がん、卵管がん、腹膜がんを発症した家族がいる女性は、いずれかの遺伝子に変異を有するリスクが高いと考えられる家族歴を有しているかを調べるために、診察を受けることを推奨しました(17)。

現在、医療従事者がこの評価を行う上で有用な検査ツールはいくつかあります(17)。 以下を含むBRCA1/2変異の可能性が高い家族歴要因を評価します。

50歳までの乳がん診断
同一女性で両乳房にがんを発症
同一女性または同一家族のいずれかで乳がんと卵巣がんの両方を発症
多発性乳がん
家族のうち1人にBRCA1またはBRCA2に関連した原発性がんを2つ以上発症
男性で乳がんを発症
アシュケナージ・ユダヤ人

BRCA1/2変異の存在が疑われる家族歴を有する場合、がんを発症した家族が存命中で検査の意向を示した場合に、まずその家族当人を検査するのがもっとも有益であるとされます。対象となる家族が BRCA1/2変異を有していると判明した場合、他の家族についても可能性のあるリスクや BRCA1/2変異検査が適当であるかを相談する遺伝カウンセリングを検討するとよいでしょう。

がん患者である家族にBRCA1/2変異が確認できない場合でも、変異を疑う家族歴がある男女であれば、がんを未発症であっても検査のための遺伝カウンセリングを受ける適用である考えられます。

生まれたときに養子に出されたなど、家族歴がわからない場合もあります。家族歴不明の女性が乳がんや卵巣がんを早期に発症したり、家族歴不明の男性が乳がんと診断された場合は、本人のBRCA1/2変異を調べる遺伝子検査を検討するべきでしょう。家族歴が不明でも、がんの早期発症や男性乳がんの発症がない場合には、BRCA1/2変異を有する可能性は非常に低く、遺伝子検査を受けるメリットは少ないと考えられます。

小児の場合、BRCA1/2変異を疑う家族歴がある場合であっても、遺伝子検査を実施することは専門家の間では推奨されていません。その理由は、小児用のリスク低減策がなく、小児がBRCA1/2変異に関連したがんを発症するリスクは極めて低いためです。しかし、BRCA1/2変異が疑われる家族歴のある小児が成人したときには、遺伝子検査を受けることについての遺伝カウンセリングを受けることが望ましいでしょう。

BRCA1/2変異を調べる遺伝子検査を受ける場合は遺伝カウンセラーと面談すべきですか?

一般的に、どの遺伝性がん症候群の遺伝子検査の場合でも、検査の前後には、遺伝カウンセリングを受けることが推奨されています。カウンセリングはがん遺伝学を専門とする医療従事者が行います。通常、遺伝カウンセリングでは検査についていろいろな側面から説明を受けることができます。

本人と家族の病歴にもとづいた遺伝性がんリスク評価については、次のことを話し合います。

遺伝子検査の適切性
陽性の検査結果と陰性の検査結果の医学的意味
検査で変異の有無が確定できない可能性について
検査結果による心理的なリスクと利点
子供への変異の遺伝リスク
行われる検査と検査の精度に関する説明
検査費用

(*米国の保険事情です)医療費負担適正化法では、リスクの高い人が受ける遺伝カウンセリングとBRCA1/2変異の検査を保険適用の予防医療とみなしており、BRCA1/2変異検査を検討している人は検査を受ける前に遺伝子検査の保険内容について確認しておくのがよいでしょう。

BRCA1/2変異の遺伝子検査を販売する企業には、保険未加入で経済的および医学的要件を満たしている特定の患者に対して、無料で検査を実施しているところもあります。

BRCA1/2遺伝子検査の結果が陽性であるとはどういうことですか?

BRCA1/2遺伝子検査では、陽性、陰性、曖昧または不確実という結果が出ます。

結果が陽性である場合は、 BRCA1またはBRCA2に既に特定されている変異を遺伝的に有しており、特定のがんを発症するリスクが高まることを意味しています。しかし、この結果では実際にがんを発症するどうか、発症時期がいつであるかはわかりません。例えば、 BRCA1やBRCA2に変異を有していても乳がんや卵巣がんを発症しない女性もいます。

検査結果が陽性ということは、生まれてくる次世代も含め家族にとっても健康上社会上重要な意味を持つことになります。他の多くの医学検査と異なり、遺伝子検査の結果は検査を受けた本人だけではなく近親者にも関わるからです。

BRCA1/2変異を有する場合、男女とも、本人ががんを発症しているかにかかわらず、その子供たちの世代が変異を受け継ぐことが考えられます。いずれかの親が有する変異を受け継ぐ可能性は子供1人につき50%の確率です。

BRCA1/2変異を受け継いでいるとわかれば、その兄弟姉妹もみなそれぞれが50%の確率で変異を受け継いでいることになります。

検査結果が陰性とはどういうことですか?

検査結果が陰性である場合は、陽性の場合よりも解釈が難しいことがあります。その理由は、家族歴や BRCA1/2変異を有する血縁者の有無が結果を決める要因になるからです。

検査を受けた本人の近親者(1等親または2等親)が BRCA1/2変異を有することがわかっていて、検査結果が陰性であった場合は、本人が家族性がんの原因となる変異を持っていないことを意味しており、変異が子供へ遺伝することもありません。このような検査結果を真陰性と言います。真陰性であった場合、がんを発症するリスクは一般の人と同じであると現在では考えられています。

検査を受けた本人に BRCA1/2変異の可能性が疑われる家族歴がある場合で、正しい遺伝子検査で家族にそのような変異が認められない場合は、明らかな陰性とは言えないという結果になります。遺伝子検査が既知のBRCA1/2変異を見逃した可能性は非常に低いですが、ゼロではありません。さらに、新たな BRCA1/2変異が発見され続けていますが、有害な影響を及ぼす可能性のある変異はまだすべて特定されていません。ゆえに、この場合、「陰性」の検査結果が出ても実際にはまだ特定されていない未知の BRCA1/2変異を有している可能性もあるのです。

また、 BRCA1/2以外の遺伝子にがんリスクを高める変異が起きている可能性もありますが、BRCA1/2の遺伝子検査では見つけられません。 BRCA1/2変異を調べる遺伝子検査を検討している人はこのような検査の曖昧な部分について、検査を受ける前に遺伝カウンセラーと話し合っておきましょう。

曖昧または不確実な検査結果とは何を意味しているのですか?

遺伝子検査では、ときどき、これまでにがんと関連があると確認されていない BRCA1/2変化が検出されます。この具体的な遺伝子変化はがんの発症リスクに影響するかどうかは不明であり、この種の検査結果は「曖昧」や「意義不明の変異」と表現されることがあります。ある研究では、 BRCA1/2遺伝子検査を受けた女性の10%がこの曖昧な結果であったことが判明しました(18)。

研究が進み、BRCA1/2遺伝子検査を受ける人が増えるにつれ、このような遺伝子の変化とがんのリスクについてより多くのことが明らかになるでしょう。BRCA1/2の中で起きている曖昧な変化ががんのリスクにとって意味することについては、遺伝カウンセリングを受けるとよく理解できます。時とともに、意義不明の変異に関するさらなる研究が進み、変異が有害か明らかに有害でないかのどちらかに再分類されることも考えられます。

検査結果が陽性であった場合、どのようにがんリスクをコントロールできるのですか?

BRCA1/2変異を有している場合、がんリスクを低減し、健康管理するための方法として、スクリーニングの強化、予防的切除手術、化学予防があります。

スクリーニングの強化については、BRCA1/2遺伝子検査が変異陽性の女性では、一般の女性よりも早い年齢でがんスクリーニングを開始したり、より頻回に検診を受けたりする場合もあります。例えば、 BRCA1/2変異のある女性は25~35歳で乳がん検診を受け始めることが推奨される場合もあります(19)。25~35歳を初回として、毎年マンモグラフィを受けることを推奨する専門家の意見もあります。

乳がんは早期に発見された場合、治療が奏効する可能性が高いがんであり、検診を強化することで、早期のステージでがんを発見できる確率が高くなります。検査結果が陽性であった場合には、行う画像検査(マンモグラフィやX線検査)には放射線が用いられるので、その危険性についても医療従事者に確認しておきましょう。

最近の研究では、乳がんのリスクが高い女性ではマンモグラフィよりもMRIの方が感度が高いことが示されています(20,21)。しかし、マンモグラフィはMRIでは検知できない乳がんを発見できることがあり(22)、MRIはマンモグラフィよりも特異度が低いのです(偽陽性がより多い)。

アメリカがん協会(ACS)や全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)などでは、現在、乳がんリスクの高い女性に対し、マンモグラフィとMRIによる年一回のスクリーニングを推奨しています。

卵巣がんについては、現在有効な検診はありません。BRCA1/2変異のある女性には、卵巣がんスクリーニングとして、経膣エコー、CA-125抗原を調べる血液検査、診察が推奨されていますが、どれも治療が奏効する早期ステージで卵巣がんを検知できる方法ではありません(23)。有効とされる検診は、対象疾患による死亡率をその方法で減らせることが実証されなければなりません。この基準を満たす卵巣がん検診はまだありません。

BRCA1/2変異を有する男性が、乳がんや他のがんについて検診を受ける利点は明らかではありませんが、変異を有するとわかっている男性に対して、前立腺がん検査に加え、定期的にマンモグラフィを受けることを推奨する専門家の意見もあります。これらのスクリーニング方法の有効性については現時点で証明されていません。

予防的切除術については、予防手術は「がん化するリスクのある」組織をできるだけ取り除くという方法です。乳がんのリスクを減らすために両乳房を除去する選択をする女性もいます(予防的両側乳房切除術)。卵巣と卵管を切除する手術(予防的両側卵管卵巣摘出術)は卵巣がんのリスクを低減する効果があります。また卵巣は特定のタイプの乳がんの増殖を促すホルモンを分泌しており、その卵巣を切除することで閉経前女性の乳がんリスクも低減します。

BRCA1/2変異または乳がんの家族歴のある男性では、乳がんリスクを低減する予防的両側乳房切除術の有効性を示すエビデンスはありません。そのため乳がんリスクの高い男性の予防的両側乳房切除術は試験的な手法とされており、通常保険でカバーされません。

予防的切除手術はがんを発症しないと確実に保証できるものではありません。なぜならがん化のリスクのある組織をすべて手術で取り除くことはできないからです。予防手術を受けた後でも、乳がん、卵巣がん、あるいは原発性腹膜がん(卵巣がんに似たタイプのがん)を発症する場合もあります。とはいえ、この手術による死亡率が低下することは事実です。調査によると予防的両側卵巣卵管摘出術を受けた女性では、卵巣がんによる死亡リスクは約80%、乳がんによる死亡リスクは56%(24)、全死因による死亡リスクは77%減少しました(25)。

これまでの研究(26)とは対照的に、卵巣卵管切除の乳がん、卵巣がんの予防効果は、BRCA1変異、BRCA2変異の保有者それぞれで同様であることを示唆するエビデンスが出てきています(25)。

化学予防とは、薬やビタミン剤などを用いてがんのリスクを低下させる、あるいは再発を遅らせようとする方法です。乳がんリスクの高い女性のリスクを低下させることを目的として、米国食品医薬品局(FDA)は、二種類の化学予防薬(タモキシフェンとラロキシフェン)を承認していますが、BRCA1/2変異保有女性におけるこれらの薬剤の効果はまだ明らかではありません。

3つの研究データから、タモキシフェンがBRCA1/2変異保有者の乳がんリスクを下げる可能性があることが示唆されていますが、これまでに乳がんと診断された患者のもう一方の乳房にがんが発症するリスクを低減する可能性についても言及しています(28、29)。BRCA1/2変異保有者に特異的なラロキシフェンの有効性については検討されていません。

経口避妊薬は一般女性とBRCA1/2変異女性の両方で卵巣がんリスクをおよそ50%低減できると考えられています(30)。

乳がんと卵巣がんのリスクを遺伝子検査で調べる利点は何ですか?

検査結果が陽性か陰性かにかかわらず、遺伝子検査を受ける利点はあります。

結果が真陰性であった場合、子供が家族性がんを発症するというリスクがないことがわかることで、将来に対する安心感を得られ、特別な検診や検査、予防的手術を受ける必要がないなどがあります。

結果が陽性であった場合、将来のがんリスクに対する曖昧さを解消することで安心感を得られ、リスクを減らすための予防策を講じるなど、将来について情報を得た上でどう行動するかを決めることができます。さらに、結果が陽性であった場合、医学研究に参加して、結果的に遺伝性乳がんや卵巣がんによる死亡を減らすことに役立てている人もいます。

乳がんと卵巣がんリスクの遺伝子検査を受ける上でのリスクはありますか?

遺伝子検査を受けるにあたっての直接的な医学的リスクはごくわずかですが、検査結果を知ることは、本人の気持ちや社会関係、経済面や医学的な選択に悪影響を及ぼす可能性があると考えられます。

検査結果が陽性と告げられた人は不安、抑うつ、憤りを感じることもあります。予防的手術を受けるか、またどのような手術を受けるかなど選択できないこともあります。

愛する人が病気を発症するリスクが高いにもかかわらず、自分自身の検査結果が陰性だった場合、自身のリスクが高くないことを知ることで、罪悪感を感じることもあるでしょう。

遺伝子検査は複数の家族にかかわる情報を明らかにするため、検査結果によって生じる感情は家族内に緊張をもたらすことがあります。また、仕事のキャリアや結婚、子供を持つことなど個人の人生の選択にも影響を与えうるものです。

遺伝子検査を受けることでプライバシーや秘密が侵害されるというリスクもあります。しかし、米国では「医療保険の携行性と責任に関する法律」やさまざまな州法により個人の遺伝情報が守られています。さらに、多くの州法に加え「遺伝情報差別禁止法」では、健康保険加入や就労に際して、生命保険や障害者保険、長期介護保険がカバーしていなくても、遺伝情報による差別を禁じています。

最後に、検査結果は正確ではない可能性も少なからずあり、誤った結果に基づいた判断をしてしまうことにもなりかねません。誤った検査結果が出る可能性は低いですが、懸念がある場合は遺伝カウンセリング時に尋ねておきましょう。

BRCA1/2変異は、乳がんや卵巣がんの診断治療にどのような意味を持つのですか?

BRCA1/2変異と関連のある乳がんおよび卵巣がんと、これらの変異と関連のないがんとの臨床上の違いについては、多くの研究が行われています。

変異を有する女性は、そうでない女性と比較して、長期にわたって同側あるいは反対側の乳房のどちらかに2度目のがんを発症しやすいことがいくつかのエビデンスにより示されています。そのため、BRCA1/2変異があり片側乳房にがんを発症した女性では、乳房温存手術が可能でも、両側乳房切除術を選択する人もいます。実際、BRCA1/2変異保有者では、二次性乳がんになるリスクが高いため、早期乳がん患者で、遺伝子のどちらかに変異のある家族がいる場合、診断時に遺伝子検査を受けるよう勧める医師もいます。

また、BRCA1の有害な変異を有する女性の乳がんは「トリプルネガティブ」というタイプであることが多いと考えられています。これは、腫瘍細胞にエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2/neuタンパクの過剰発現が認められない乳がんで、一般的に他のタイプの乳がんよりも予後が悪いとされています。

BRCA1/2の遺伝子産物はDNAの修復機能に関わるため、これらの遺伝子が変異したがん細胞は、シスプラチンなどDNAを損傷することで作用する抗がん剤に対して感受性が高いと考えられています。前臨床試験では、PARP阻害剤というDNA損傷の修復を阻害する薬剤が、BRCA1/2変異を有するがん細胞の増殖を抑えることがわかっています。これらの薬剤はまたBRCA1/2変異を有するがん患者に一定の効果を示しており、薬剤の開発と試験が進められています。

現在行われている、BRCA1/2変異保有者に有効な研究にはどのようなものがありますか?

BRCA1/2変異保有者のがんを発見、治療、予防するための新たなよりよい方法を見出すための調査研究が行われています。遺伝カウンセリングの手法や結果の向上に重点を置いた研究も増えており、この分野に関する知見は急速に蓄積されています。

BRCA1/2変異保有者を対象とした現在実施中の臨床試験に関する情報は、NCIのウェブサイトにて入手できます。以下のリンクからBRCA1/2変異保有者に向けた臨床試験を検索できます。
BRCA1変異保有者 
BRCA2変異保有者
NCIがん情報サービスではまた、臨床試験に関する情報を提供し、臨床試験を探すお手伝いをします。

他の遺伝子変異でも乳がんや卵巣がんまたはそのどちらも発症するリスクは増すのですか?

はい。乳がん発症者が複数いる家族のおよそ半分、乳がんと卵巣がんの両方を発症した家族の90%が BRCA1/2変異に起因したものですが、乳がんや卵巣がんまたはその両方を発症するリスクは、他の多くの遺伝子の変異とも関連しています(2、31)。これら他の遺伝子には、カウデン症候群やポイツ・ジェガーズ症候群、リ・フラウメニ症候群、ファンコニー貧血など、多くのがんのリスクを増加させる遺伝性疾患に関連したものもあります。

これら他の伝子変異で増加する乳がんリスクはBRCA1/2変異によるものよりも小さいですが、最近、PALB2遺伝子変異がBRCA1/2変異と同じぐらい乳がんリスクの増加に関係していることが報告されました(32)。PALB2遺伝子変異を有する女性の33%が70歳までに乳がんを発症すると推定されています。PALB2変異と相関した乳がんの推定リスクは乳がんの家族歴を有する女性ではさらに高く、70歳までに58%が乳がんを発症するとされています。

BRCA1/2と同様、PALB2はがん抑制遺伝子です。PALB2遺伝子はBRCA1/2によって産生されるタンパクと相互作用するタンパクを産生し、DNAの修復を阻害します。PALB2変異(FANCNともいう)は乳がんのほかに卵巣がん、すい臓がん、前立腺がんリスクの増加とも相関しています(13、33、34)。また、PALB2変異をそれぞれの親から受け継いだ場合、小児の固形腫瘍と関連するファンコニー貧血の亜型であるFA-Nを発症する可能性があります(13、33、35)。

PALB2変異を調べる遺伝子検査を受けることはできますが、誰が検査を受けるべきか、PALB2変異保有者の乳がんリスクをどう対策するか、についての具体的なガイドラインは策定されていません。

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今泉 眞希子 訳
下村 昭彦(腫瘍内科/国立がん研究センター)監修
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